
3-2. デジタル形式遺言書のメリットとデメリット
デジタル形式で遺言書を作成することには、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
手軽さと更新のしやすさ
メリットの1つ目は、圧倒的な手軽さです。
専門家に遺言作成を依頼すれば数万円以上かかりますが、アプリやクラウドサービスを使えば無料で遺言の内容を作成できます。お手元にスマートフォンやパソコンさえあれば、通勤時間や休憩時間など、いつでもどこでも作成・修正ができます。
従来の自筆証書遺言では、全文を手書きする必要がありました(財産目録を除く)。これは、特に高齢者や字を書くことが困難な方にとっては大きな負担でした。デジタル形式なら、パソコンやスマホで入力できるため、この負担が大幅に軽減されます。
2つ目は、更新のしやすさです。
人生には様々な変化があります。結婚、離婚、子どもの誕生、財産の増減…。その度に遺言書を書き直すのは大変な作業です。
デジタル形式なら、内容の変更も簡単です。一部を修正したい場合も、紙の遺言書のように訂正印を押したり、場合によっては全部書き直したりする必要はありません。画面上で編集して保存すれば完了です。
3つ目は、形式不備のリスクを減らせることです。
自筆証書遺言は、法律で定められた要件を1つでも欠くと無効になってしまいます。「全文、日付、氏名を自書し、押印する」という基本的な要件すら、意外と間違えやすいものです。
デジタル遺言アプリの多くは、法律に精通した専門家が開発に関わっており、質問に答えていくだけで法的に有効な形式の文面が作成されます。形式不備による無効のリスクを大きく減らすことができるのです。
セキュリティ上の懸念
一方で、デメリットや懸念点もあります。
1つ目は、セキュリティの問題です。
デジタルデータは、不正アクセスやハッキングのリスクと常に隣り合わせです。特にパスワードが漏洩すると、第三者に遺言内容を見られたり、改ざんされたりする可能性があります。
ブロックチェーン技術で保管するサービスもありますが、それでもアクセス情報の管理は利用者の責任です。強固なパスワードの設定、二段階認証の利用など、セキュリティ対策が不可欠です。
2つ目は、サービス終了のリスクです。
アプリやクラウドサービスを提供する企業が事業を終了すれば、保存していた遺言内容のデータが全て消去される可能性があります。実際、数年前にサービスを開始したデジタル遺言サービスの中には、既に終了したものもあります。
そのため、デジタルで保存するだけでなく、定期的にバックアップを取ったり、紙でも保存しておいたりする対策が必要です。
法的有効性の問題
そして最も重要なのが、法的有効性の問題です。
2025年11月現在、民間のアプリやクラウドサービスで作成・保存した遺言データには、そのままでは法的効力がありません。これは何度強調してもしすぎることはないほど重要なポイントです。
これらのサービスで作成できるのは、あくまで「遺言書の文面の案」です。法的に有効な遺言書とするためには、以下のいずれかの方法が必要です:
- アプリで作成した内容を紙に書き写して自筆証書遺言にする
- 全文、日付、氏名を自筆で書き、押印する
- 財産目録はパソコンで作成してもOKだが、各ページに署名・押印が必要
- 公正証書遺言として公証役場で正式に作成する
- アプリの内容を参考に、公証人に作成してもらう
- 2025年10月からはオンラインでの作成も可能に
- 法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する
- 自筆で作成した遺言書を法務局に預ける
- 検認手続きが不要になり、紛失や改ざんのリスクがなくなる
つまり、デジタル遺言アプリはあくまで「案分作成ツール」「下書き作成ツール」として非常に便利ですが、それだけでは法的効力を持たないということです。ここは十分に理解する必要があります。


