相続時精算課税が生まれ変わった―2025年、「110万円基礎控除」で贈与戦略はどう変わったのか(相続関連10大ニュース・第4位)

暦年課税か精算課税か

「生前贈与で相続税を減らしたい」――多くの方がそう考えます。でも、2024年以降、贈与の常識が大きく変わりました。

特に注目すべきは、「相続時精算課税制度」の大改正です。かつて「使いにくい」と敬遠されていたこの制度が、令和5年度税制改正により、一気に魅力的な選択肢へと生まれ変わったのです。

2025年は、この新しい制度が実務の現場に浸透し、「暦年贈与を続けるか、精算課税に切り替えるか」という選択を迫られる年になりました。

相続時精算課税って何? なぜ敬遠されていたのか?

まず、相続時精算課税制度とは何でしょうか。

この制度は、親や祖父母から子や孫へ贈与するとき、贈与時には2,500万円まで贈与税がかからないものの、将来の相続時にその贈与額を相続財産に加算(持ち戻し)して相続税を計算する、という仕組みです。

つまり、「贈与税は今は払わなくていいけれど、相続のときに精算しますよ」という制度。税金の繰り延べに過ぎず、節税効果はありません。

しかも、一度この制度を選ぶと、その贈与者との関係では二度と通常の暦年贈与(年110万円まで非課税)に戻れません。

こうした理由から、「使いにくい」「メリットが少ない」と敬遠されてきたのです。

2024年改正で何が変わったのか?「年110万円の基礎控除」創設

ところが、令和5年度税制改正により、2024年(令和6年)1月1日以降の贈与から、この制度に革命的な変化が起きました。

年110万円の基礎控除が新設されたのです。

これは何を意味するのでしょうか? 新制度下では、相続時精算課税を選択しても、年間110万円以下の贈与であれば:

  1. 贈与税がかからない
  2. 贈与税の申告が不要(初年度は選択の届出が必要)
  3. 相続時に持ち戻し計算をしなくてよい

特に3番目が画期的です。110万円までの贈与は、将来の相続時に相続財産へ加算されません。つまり、完全に非課税で資産を移転できるようになったのです。

従来の相続時精算課税は「すべて持ち戻し」が前提でしたが、改正後は「年110万円までは持ち戻しなし」という、暦年贈与と似た性格を持つようになりました。これは、制度の性格を根本から変える、相続税制の大きな転換点だったと言えます。

暦年贈与の「7年ルール」とは?

一方で、通常の暦年贈与にも大きな変化がありました。

従来、暦年贈与では「相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算される」というルールがありました。これが令和5年度改正により、相続開始前7年以内に延長されることになったのです。

ただし、完全な7年持ち戻しが適用されるのは2031年以降の相続からで、2024年以後の贈与について段階的に延びていく仕組みです。それでも、「7年ルール」の登場により、暦年贈与の節税効果は確実に小さくなりました。

特に高齢者の場合、「7年以内に相続が発生するかもしれない」というリスクが現実的になります。そうなると、せっかくコツコツ贈与しても、結局は相続財産に加算されてしまうのです。

暦年贈与 vs 新・相続時精算課税:どちらを選ぶ?

2025年の実務では、「暦年贈与を続けるか、精算課税に切り替えるか」という選択を迫られる場面が増えました。比較してみましょう。

基礎控除

  • 暦年贈与:年110万円(従来通り)
  • 精算課税:年110万円(新設) → 同額です

持ち戻しのリスク

  • 暦年贈与:相続開始前7年間の贈与は持ち戻し対象(段階的延長中)
  • 精算課税:基礎控除110万円分は持ち戻しなし → 精算課税が有利

110万円を超える贈与の税率

  • 暦年贈与:累進税率(10〜55%)。高額になるほど税率が上がる
  • 精算課税:一律20%(ただし相続時に相続税と精算) → 多額の贈与の場合、精算課税の方が贈与税率は低いことも

注意点

  • 精算課税を一度選ぶと、暦年贈与に戻れません
  • 選択には届出書の提出が必要

「年110万円までのコツコツ贈与」なら精算課税が有利?

ここまで見てくると、ある結論が見えてきます。

年110万円以内のコツコツ贈与を行うのであれば、持ち戻しリスクのない新・精算課税制度の方が有利になるケースが多い、ということです。

特に、相続発生が近いと予想される高齢者の場合、暦年贈与では7年ルールの網にかかる可能性が高くなります。そうなると、せっかくの贈与が相続財産に加算されてしまいます。

一方、精算課税の110万円基礎控除を使えば、その分は確実に持ち戻しなしで資産を移転できるのです。

ただし、万能ではない:個別判断が必要

ここまで読むと、「じゃあ、みんな精算課税に切り替えればいいじゃないか」と思うかもしれません。

でも、そう単純ではありません。重要な注意点があります。

1. 110万円を超える部分は全額持ち戻し

精算課税の基礎控除は年110万円まで。それを超える部分は、従来通り全額が相続時に相続財産へ加算されます。

多額の贈与を行う場合は、相続税と贈与税を通算したトータルの税負担を慎重に比較する必要があります。

2. 相続税率が高い層では要注意

精算課税では、贈与額が相続時に相続財産に加算され、相続税として課税されます。もし相続税率が高い層(資産が多い層)であれば、「相続時にまとめて高い税率がかかる」リスクもあるのです。

3. 一度選ぶと戻れない

精算課税を選択すると、その贈与者との関係では二度と暦年贈与に戻れません。これは大きなリスクです。

4. 個別事情によって最適解は異なる

相続税率、他の相続人の状況、資産構成、将来の相続時期の見通し――これらすべてを考慮して判断する必要があります。

したがって、「精算課税が圧倒的に有利」「強く推奨される」とは一概に言えません。より正確には、「年110万円までの贈与を主に考えるケースでは、精算課税を選択するメリットが大きくなった」精算課税を有力な選択肢として検討する動きが強まっている」と言うべきでしょう。

2025年の現場:選択を迫られる年

2025年は、この新しい制度が実務の現場に本格的に浸透した年でした。

税理士の相談現場では、「暦年贈与を続けるべきか、精算課税に切り替えるべきか」という質問が増えたそうです。専門家の解説サイトや税務セミナーでも、この選択がメインテーマとして扱われていました。

改正そのものは2024年に行われましたが、実際に多くの人が「選択」を迫られ、行動を起こし始めたのが2025年だったと言えるでしょう。

まとめ:自分に合った贈与戦略を

新・相続時精算課税のポイント:

  • 年110万円の基礎控除が新設(2024年1月以降)
  • 110万円までは贈与税非課税、申告不要、持ち戻しなし
  • 暦年贈与の7年ルールと比べて、持ち戻しリスクがない

選択のポイント:

  • 年110万円以内の贈与なら、精算課税のメリットが大きい
  • ただし、多額の贈与や相続税率が高い層は要シミュレーション
  • 一度選ぶと戻れないので慎重に

もしあなたが生前贈与を考えているなら、2025年は立ち止まって戦略を見直すべきタイミングです。

「今まで通り暦年贈与でいいのか?」 「精算課税に切り替えた方がいいのか?」

この問いに答えるには、あなたの個別の状況を踏まえた税理士の判断が必要でしょう。

必ず税理士に相談してください。「暦年贈与と精算課税、どちらが有利ですか?」と聞いてみましょう。

弊所では具体的な相談には乗ることができませんが、相続・贈与に強い専門家を紹介することができます。

相続税制は大きく変わりました。その変化を味方につけるためには、正しい知識と専門家のサポートが欠かせません。2025年、あなたの贈与戦略を見直す年にしてください。

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