高齢化する農家を支える新しい仕組み ─ 介護が必要になっても土地を守れる制度改正(2025年相続関連10大ニュース 第10位)

農地の相続

2025年もあとわずか。みなさんの2025年はどんな年でしたか?
テレビやネットでは2025年10大ニュースなんてやってたりしますね。それをまねて、LeaF行政書士事務所が考える2025年相続関連10大ニュースを、専門家ではない一般の方向けにコラムにしてみます。わかりやすく書いてもかなりマニアックではありますが、お暇なときにでも目を通してみてください。
*複数年にまたがるものもあり厳密には2025年ではないものも入るかもしれませんが、ご容赦ください。

あなたの周りに、農地や山林を相続した方はいらっしゃいますか? もしくは、ご自身がそうした土地を受け継ぐ可能性があるでしょうか。

実は、農地や山林の相続には特別な仕組みがあります。それが「納税猶予制度」です。簡単に言えば、一定の条件を満たせば、相続税の支払いを先送りできる制度なのですが、この制度に2025年度、静かながら重要な変更が加えられました。

今回は、この制度改正が、高齢の農家や山林所有者、そしてその家族にとってどんな意味を持つのか、お話ししていきましょう。

そもそも、なぜ農地や山林には特別な制度があるのか

農地や山林は、不動産という意味では一般の土地と同じですが、その性質は大きく異なります。住宅地のように簡単に売買されたり、細かく分割されたりしてしまうと、農業や林業の継続が困難になってしまうのです。

想像してみてください。代々守ってきた田んぼや畑を相続したとき、多額の相続税を払うために土地を売らなければならない。あるいは、兄弟で分割相続した結果、一つ一つの区画が小さくなりすぎて、効率的な農業ができなくなってしまう。そうなれば、日本の農地は次々と失われ、食料自給率の低下や耕作放棄地の増加につながってしまいます。

そこで国は、「農業や林業を続ける人には、相続税の負担を軽くしてあげよう」という政策を取ってきました。それが納税猶予制度です。農地や山林を相続した人が、きちんと農業・林業を続けていれば、相続税の支払いを猶予(先送り)してもらえる。そして、その人が亡くなるまで営農・営林を続ければ、最終的には納税が免除されるという仕組みなのです。

従来の制度が抱えていた問題

とても良い制度のように聞こえますよね。でも、一つ大きな問題がありました。

それは、「相続した人が自分で農業・林業を続けること」が強く求められていたことです。つまり、自分で田んぼを耕し、自分で山に入って木の手入れをすることが原則。人に貸したり、誰かに管理を委託したりすると、原則として納税猶予が打ち切られ、猶予されていた税金を一括で払わなければならなかったのです。

もちろん、完全に融通が利かないわけではありませんでした。病気になったり、障害を負ったりして、「どうしても自分では続けられない事情」がある場合には、認定農業者や森林組合といった「きちんとした担い手」に土地を貸したり委託したりしても、納税猶予を続けられる特例が用意されていました。

しかし、この「どうしても続けられない事情」の範囲が、必ずしも明確ではなかったのです。

2025年度改正の核心 ─ 「介護医療院への入所」が追加された

そして今回、2025年度の税制改正で、この「どうしても続けられない事情」のリストに、「介護医療院への入所」が明確に追加されました。

介護医療院というのは、医療と介護の両方が必要な高齢者が長期的に療養できる施設です。従来の老人ホームよりも医療面のケアが充実しており、重度の要介護状態の方や慢性疾患を抱える方が入所されることが多い施設です。

つまり、農地や山林を相続した高齢者が、介護医療院に入所しなければならないほどの状態になった場合でも、認定農業者や森林組合などに土地を貸したり委託したりすれば、納税猶予を継続できることが明文化されたのです。

一見すると、とても小さな変更に思えるかもしれません。でも、この改正が持つ意味は、実は非常に大きいのです。

この改正が生み出す「安心感」

まず第一に、高齢の農家や山林所有者にとっての心理的な安心感が大きく変わります。

これまでは、「自分が介護施設に入ったら、納税猶予が打ち切られてしまうかもしれない」という不安がありました。その不安ゆえに、本当は施設での療養が必要なのに、無理をして自宅に留まり続ける。あるいは、施設入所を前に、慌てて土地を処分してしまう。そんなケースも少なからず存在していたのです。

今回の改正で、「介護医療院に入所しても、きちんとした担い手に任せれば納税猶予は続けられる」ことがはっきりしました。これにより、高齢者は、必要なタイミングで必要な介護を受ける選択をしやすくなります。

また、相続した子どもや孫の世代にとっても、大きな意味があります。「親が施設に入る=すぐに農地や山林を処分しないと相続税で困る」というプレッシャーから解放されるのです。焦って土地を手放す必要がなくなり、じっくりと、地域の信頼できる農家や法人、森林組合に貸したり委託したりする選択ができるようになります。

土地が「流れやすく」なることの意味

この改正のもう一つの狙いは、農地や山林を「必要としている人に、スムーズに渡す」ことです。

日本の農業や林業が抱える大きな課題の一つが、土地の細切れ化と高齢化です。小さな区画に分かれた農地では効率的な農業ができませんし、管理が行き届かない山林は災害リスクを高めてしまいます。

今回の改正により、高齢の所有者が介護施設に入所した後も、農地は規模拡大を目指す若手農家や法人に、山林は森林組合などに貸しやすくなります。つまり、土地が「より良い使い手」に渡りやすくなるのです。

これが実現すれば、農業の生産性向上、耕作放棄地の減少、山林の適切な管理による災害リスクの低減といった、様々な良い効果が期待できます。

ただし、まだ「期待されている段階」であることも事実

もちろん、この改正が始まったばかりであることも忘れてはいけません。

「農地の集約が何ヘクタール進んだ」「耕作放棄地が何パーセント減少した」といった具体的な数値データは、まだ出ていません。今の段階で確実に言えるのは、「制度上の選択肢が広がった」「心理的な安心感が生まれた」というレベルの変化です。

税理士や専門家の間では、すでにこの改正について説明が始まっており、相続や贈与の相談の場で、「介護施設に入った後も、担い手に貸しながら納税猶予を続ける」というパターンが現実的な選択肢として提示されるようになっています。この「相談の現場での変化」は、すでに起きている変化と言えるでしょう。

一方で、この改正が実際にどれだけの効果を生むかは、これからの数年間で明らかになっていきます。制度を使う人がどれだけ増えるか、それによって農地や山林の集約がどれだけ進むかは、今後の課題です。

制度を知り、選択肢を持つことの大切さ

今回の改正は、派手なものではありません。テレビのニュースで大きく取り上げられるような内容でもないでしょう。

でも、農地や山林を相続する可能性のある方、すでに相続して管理されている方にとっては、知っておくべき重要な変更です。

もしあなたやご家族が、「親が高齢で、そろそろ施設への入所を考えなければならない」「でも、農地や山林の相続税が心配で、どうしたらいいか分からない」という状況にあるなら、ぜひ税理士や専門家に相談してみてください。この新しい制度を使えば、無理なく土地を守りながら、必要な介護を受けるという選択ができるかもしれません。

制度は、知らなければ使えません。そして、選択肢を知っているかどうかが、人生の大きな岐路で、まったく違う結果を生むこともあります。

高齢化が進む日本で、農地や山林を次の世代にどう引き継いでいくか。その答えの一つが、今回の制度改正には込められているのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!