タワマン節税の終焉――2025年、富裕層の相続対策はどう変わったのか(2025年相続関連10大ニュース・第6位)

タワマン節税の終焉

「タワーマンションを買えば相続税が安くなる」――そんな話を聞いたことはありませんか?

実は2025年、この「タワマン節税」が大きな転換点を迎えました。国税庁が評価ルールを改正し、最高裁判所も厳しい判断を示したことで、富裕層の相続対策の風景が一変しつつあるのです。

タワマン節税って何だったのか?

まず、タワマン節税の仕組みを簡単におさらいしましょう。

相続税を計算するとき、不動産は「路線価」や「固定資産税評価額」といった基準で評価されます。これらは一般的に、実際の市場価格(時価)よりもかなり低く設定されています。

特にタワーマンションの高層階は、この乖離が極端でした。たとえば、実際には1億円で売買されている部屋が、相続税の評価では2,000万円にしかならない――そんなケースも珍しくなかったのです。

評価額が低いということは、相続税も安くなります。ですから富裕層の間では、「相続対策としてタワーマンションを買っておく」という手法が広まっていました。これが「タワマン節税」です。

2024年1月から何が変わったのか?「60%ルール」の導入

国税庁は、令和6年(2024年)1月1日以後の相続・贈与で取得した分譲マンションについて、評価額の算定ルールを大きく改めました。

新しい評価の仕組み

改正後の仕組みは、少し複雑ですが、要点はこうです:

国税庁は、マンションの「市場価格の理論値」と「従来の評価額」を比べて、「評価乖離率」というものを計算します。この計算には、築年数、階数、所在階、敷地持分といった要素が使われます。

そして、この乖離率から「評価水準」を求め、次のようなルールで評価額を補正するのです:

  • 評価水準が60%未満の場合→市場価格理論値の60%になるように増額補正
  • 評価水準が60~100%の場合→補正なし(従来の評価のまま)
  • 評価水準が100%超の場合→100%に収まるように減額補正

この「60%」という数字が、今回の改正の核心です。どんなにタワーマンションの評価が低くても、最低でも市場価格の60%は評価しますよ、というルールになったのです。

具体的にどれくらい変わったのか?

イメージしやすいように、具体例で見てみましょう。

従来:

  • 時価1億円のタワーマンション
  • 相続税評価額:2,000万円(評価水準20%)

改正後:

  • 評価水準が60%未満なので、補正が入る
  • 補正後評価額:約6,000万円(時価の60%)

つまり、評価額が3倍に跳ね上がったことになります。相続税の増税額は、ケースによっては2,000万円を超えることもあり得ます。

これでは、もはや「節税」どころではありません。タワマン節税の効果は、ほぼ消えてしまったと言っていいでしょう。

富裕層はどう動いたか?「ヴィンテージ・マンション」への注目

ところで、この新ルールには興味深い特徴があります。

評価乖離率を計算する式には、築年数や階数といった要素が含まれています。そのため、築年数が古く、低層のマンションは、もともと時価と評価額の乖離が小さい――つまり、もともと評価水準が60%以上あるケースが多いのです。

そうしたマンションは、新ルールでも補正の対象外になるか、補正されても増額幅が小さくて済みます。

実務の専門家からは、「築40年、50年といった古いマンションは、新ルール後も評価水準が高く、タワマンほどの増額インパクトは出にくい」という指摘が出ています。

そこで注目されているのが、ヴィンテージ・マンションです。好立地で、管理がしっかりしている築古のマンション。こうした物件は、新ルールの影響を受けにくく、かつ資産価値も安定しているため、相続対策として見直されつつあるのです。

「新築タワマン一辺倒」だった富裕層の相続対策が、築古の良質なマンションへとシフトする動きが見られ始めている――専門家の間では、そんな傾向が語られています。

最高裁が示した「伝家の宝刀」:総則6項の威力

新しい評価ルールだけではありません。最高裁判所も、タワマン節税に厳しい判断を示しました。

総則6項とは何か?

「財産評価基本通達 総則6項」という規定があります。これは、評価通達に従った計算であっても、その評価額が著しく不適当と認められる場合には、国税庁長官の指示で別の方法で評価できる、という規定です。

要するに、「ルール通りに計算しても、あまりにも不公平な結果になるときは、別の方法で評価しますよ」という伝家の宝刀なのです。

最高裁令和4年判決が示したこと

令和4年(2022年)4月19日、最高裁判所は重要な判決を出しました。

ある相続税の事案で、国税当局が総則6項を適用して、評価通達による評価額ではなく、時価(鑑定評価額)で課税したことが争われました。最高裁は、国税側の主張を認めたのです。

この判決のポイントは次の通りです:

  • 評価通達に従った計算であっても、
  • 相続税負担が著しく軽減され、他の納税者との公平を害する特段の事情がある場合には、
  • 総則6項に基づき時価で課税しても平等原則違反にはならない

どんなケースが危ないのか?

具体的にどういうケースが問題視されるのでしょうか。

典型的なのは、「相続直前に借入→購入→直後売却」というパターンです。

たとえば、こんなケースです:

  • 90歳を過ぎた高齢者が、多額の借入をしてタワーマンションを購入
  • 評価通達による極端に低い評価を利用して、相続税負担を大幅に圧縮
  • 相続直後に、そのマンションを売却

こうした取引は、経済合理性に乏しく、明らかに租税回避を目的としています。こうしたケースでは、総則6項が適用されるリスクが非常に高いと、多くの専門家が指摘しています。

でも、総則6項が「常態化」したわけではない

ただし、誤解してはいけないのは、総則6項が「いつでも使える」わけではない、ということです。

単に通達評価と時価に乖離があるだけでは足りません。その評価方法を採用する合理的理由がなく、租税負担の公平を害しているかどうかが重視されるのです。

つまり、正当な理由でマンションを購入し、長く保有している場合は、総則6項の適用を心配する必要はありません。問題になるのは、あからさまな租税回避のケースなのです。

何が変わったのか、まとめ

2025年の状況を整理すると、こうなります:

1. 評価ルールの改正(60%ルール)の浸透

  • タワーマンションの評価額が大幅に引き上げられた
  • 最低でも市場価格の60%は評価される
  • タワマン節税の効果はほぼ消滅

2. ヴィンテージ・マンションへの注目

  • 築古・低層のマンションは新ルールの影響を受けにくい
  • 好立地・管理良好な物件が相続対策として見直されている

3. 総則6項のリスク

  • あからさまな租税回避には、伝家の宝刀が抜かれる
  • 最高裁も国税側の立場を支持
  • 経済合理性のない取引は危険

これからの相続対策はどうすべきか?

では、これから相続対策を考える人は、どうすればいいのでしょうか?

第一に、「節税ありき」で考えないことです。

タワマン節税のような、評価の歪みを利用した手法は、もはや通用しません。それどころか、あからさまな租税回避は、総則6項のリスクを背負うことになります。

第二に、「本当に必要な不動産か」を考えることです。

相続対策として不動産を買うなら、それは本当にあなたや家族にとって必要なものでしょうか? 長く保有し、活用する予定があるでしょうか? 単に税金を減らすためだけに購入するのは、危険な発想です。

第三に、専門家に相談することです。

相続対策は、税制改正や判例の動向を踏まえた、総合的な判断が必要です。この点について、最適な専門家は税理士となります。特に相続税に特化した税理士事務所ですので、あなたの状況にあった適切な対策を相談しましょう。(私は、税理士事務所と一緒に仕事をした期間が長いため、行政書士といっても一定の知識はありますが、一般的な行政書士では知識的にも法的にも対応ができません。)

最後に:公平な税負担を目指して

タワマン節税の終焉は、ある意味では「当然の流れ」だったのかもしれません。

実際に1億円の価値がある財産を、2,000万円としか評価しない。それが許されれば、タワーマンションを買える富裕層だけが大きく節税でき、そうでない人との間に不公平が生じます。

今回の改正と最高裁判決は、そうした不公平を是正しようとする動きです。「税負担の公平」という原則に立ち戻ろうとしているのです。

もちろん、適切な相続対策を考えること自体は、何も悪いことではありません。大切なのは、法の趣旨を尊重し、経済合理性のある、正当な方法で対策を講じることです。

2025年、タワマン節税の時代は終わりました。でも、それは相続対策の終わりを意味するわけではありません。新しい時代に合った、公正で合理的な対策を考える――そのスタート地点に、私たちは立っているのです。

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