
放置すると危ない相続――保険金と不動産で見えた2025年最高裁の二つの警告
あなたは「保険金だから大丈夫」「まだ時間があるから大丈夫」と思っていませんか? 2025年、最高裁判所が示した二つの判決は、そんな思い込みに警鐘を鳴らすものでした。
「保険金だから安心」は危険かもしれない
まず一つ目は、自動車保険の「人身傷害保険金」に関する判決です(令和7年10月30日・最高裁第一小法廷)。
交通事故で亡くなった方の人身傷害保険金について、最高裁は「これは亡くなった人の損害を埋め合わせるお金だから、相続財産に入る」と判断しました。どういうことでしょうか?
例えば、借金を抱えた親が交通事故で亡くなったとします。子どもは借金を引き継ぎたくないので相続放棄を考えています。そんなとき、保険会社から「人身傷害保険金が出ます」と連絡が来たら、どう思いますか? 多くの人は「これは保険金だから、相続とは別。もらっても大丈夫」と考えるかもしれません。
でも、この判決によって状況が変わりました。人身傷害保険金は「相続財産」とされたため、相続放棄をした子どもが自分のものとして受け取ることはできなくなったのです。保険金は、次の順位の相続人(たとえば親の両親など)が遺産として引き継ぐことになります。
さらに深刻なのは、ここからです。
相続放棄をしようと思っている人が、「保険会社が支払うと言っているから」と何も考えずに保険金を受け取って使ってしまうと、民法921条で定める「単純承認」をしたとみなされる可能性があるのです。単純承認とは、「相続を承認しました」という意思表示。つまり、借金も含めてすべてを相続することを選んだとみなされてしまいます。
保険金を受け取ったことで、後から「これは相続財産の処分に当たる」と評価され、もう相続放棄ができなくなってしまうリスクがあるということです。
ですから、相続放棄を考えているとき、あるいは親に借金があるかどうか分からないときに「人身傷害保険金」の話が出てきたら、すぐには受け取らないでください。まずは専門家に相談することが、今まで以上に重要になったのです。
「まだ時間がある」も危ないかもしれない
二つ目は、不動産の所有権に関する判決です(令和6年3月19日・最高裁第三小法廷)。
少し法律の話になりますが、「相続回復請求権」という権利があります。これは、本来の相続人でない人が相続財産を持っている場合に、「それは私のものだから返してください」と請求できる権利です。この権利には時効があり、5年または20年で消滅します。
多くの人は「相続回復請求権の時効が切れていないなら、まだ大丈夫」と考えるかもしれません。でも、最高裁はこう言いました。「相続回復請求権の時効がまだ残っていても、占有している側が取得時効の要件を満たせば、所有権を取得できる」と。
どういうことか、具体例で考えてみましょう。
あなたのおじいさんが亡くなり、実家の土地を相続するはずだったとします。でも、遠い親戚が「自分が相続人だ」と称して、その土地を占有し続けています。あなたは「相続回復請求権があるから、いつか取り戻せばいい」と思って、何年も放置していました。
ところが、その親戚が10年間(善意・無過失の場合)または20年間、その土地を占有し続けると、民法162条の「取得時効」が完成してしまう可能性があるのです。取得時効が完成すると、相手方はその土地の所有権を正式に取得してしまいます。
つまり、「相続回復請求権がまだ残っているから安心」と何もしないでいると、その前に相手の取得時効が先に完成してしまい、あなたは所有権そのものを失ってしまうかもしれないということです。
この判決が特に重要なのは、空き家や空き地が増えている今の時代です。実家を相続したけれど遠方に住んでいて管理できない、名義変更も面倒でそのまま放置している――そんなケースは珍しくありません。
「知らないうちに誰かに土地を取られる」というのは極端な表現かもしれませんが、長期間にわたって占有されることで、権利関係が塗り替わってしまう余地がある。裁判所はそのようなメッセージを発したのです。
「放置」が最大のリスク
この二つの判決に共通するのは、「知らないまま放置していると損をする」というメッセージです。
「保険金だから安全」 「相続回復請求権があるから安全」
こうした思い込みは、もう通用しないかもしれません。
相続が発生したとき、特に次のような場合は要注意です:
- 借金の有無が分からないとき→保険金の受け取りは専門家に相談してから
- 相続放棄を検討しているとき→どんな保険金でも、受け取る前に確認を
- 実家や土地を放置しているとき→名義変更や管理の方針を早めに決める
- 相続人の範囲があいまいなとき→専門家に相談して権利関係を明確に
相続は「いつか考えればいい」ではなく、「今から備える」ものです。そして一度発生したら、「放置しない」ことが何より大切。それが、2025年の最高裁判決が私たちに教えてくれた教訓なのです。
もし今、相続に関して「ちょっと気になることがある」と感じているなら、それは行動を起こすサインかもしれません。専門家に相談するという一歩が、将来の大きな損失を防ぐことにつながるのです。








