
「裁判の途中で、相手方が亡くなってしまった」
そんなとき、裁判はどうなると思いますか?
実は、裁判は一旦ストップします。亡くなった人の立場を、相続人が引き継ぐ必要があるからです。これを法律用語で「訴訟の受継」といいます。
ただ、ここで大きな問題が起きていました。
相続人探しが裁判を長期間止めてしまう
裁判を続けるには、亡くなった人の相続人が誰なのかを特定しなければなりません。
でも、実際にやってみると、これがとても大変なのだそうです。
まず、戸籍をたどって相続人候補を見つけます。ところが、それだけでは不十分でした。なぜなら、その人が本当に「今も相続人なのか」を確認する必要があるからです。
相続放棄をしている可能性があるからですね。
相続放棄の有無を調べるには、家庭裁判所に照会したり、本人に確認したりと、手間も時間もかかります。相続人が複数いたり、遠方に住んでいたりすれば、なおさらです。
こうした調査に数ヶ月、場合によっては1年以上かかることもあり、「裁判が進まない」という深刻な問題になっていました。
最高裁が示した現実的な解決策
こうした状況を受けて、2025年6月25日、最高裁判所が重要な判断を示しました(命令第17009号)。
最高裁の考え方はこうです。
「戸籍などの公的書類を見て、法律上相続人と認められる人を特定できたら、ひとまずその人を裁判の当事者として呼び出して、手続きを進めてよい」
つまり、裁判所や相手方が、相続放棄されているかどうかまで、あらかじめ徹底的に調べ尽くす必要はない、ということです。
これは、裁判を合理的なスピードで進めるための、とても現実的な判断だといえます。
「相続放棄しています」と言うなら、証拠を出してください
では、戸籍上は相続人とされている人が、「私は相続放棄をしているので、この裁判には関係ありません」と主張したらどうなるのでしょうか?
最高裁は、この点についても明確にしました。
相続放棄をしたことを証明する責任は、それを主張する本人にある、というのです。
具体的には、家庭裁判所から交付される「相続放棄申述受理通知書」などの証拠を提出して、自分はすでに相続人の地位にないことを説明する必要があります。
言い換えれば、「戸籍上は相続人として扱います。ただし、相続放棄など特別な事情があると言うなら、その証拠を持ってきて説明してください」という位置づけです。
裁判を止めず、権利も守る
この最高裁の判断には、大きな意味があります。
まず、債権回収や不動産の明け渡しを求める裁判などで、被告が亡くなったことをきっかけに裁判が長期間止まってしまうリスクが小さくなります。
同時に、本当に相続放棄をした人の権利もきちんと守られます。証拠さえ出せば、裁判から外れることができるからです。
相続人特定のハードルを現実的なレベルにとどめつつ、相続放棄をした人には自分で説明してもらう
このバランスの取れた整理によって、裁判手続きがスムーズに進むようになることが期待されています。
実務への影響
この判断は、法律の専門家だけでなく、実際に裁判に関わる可能性のあるすべての人に影響があります。
たとえば、貸したお金を返してもらうための裁判を起こしていたら、相手が亡くなってしまった。そんなとき、以前なら相続人調査で何ヶ月も待たされたかもしれません。でも今後は、より早く手続きが進む可能性が高まります。
逆に、相続放棄をした立場の人は、「戸籍に載っているから」という理由だけで裁判に巻き込まれることがあっても、受理通知書を提出すれば速やかに手続きから外れることができます。
相続と裁判。この二つが重なるケースは、誰にでも起こりうることです。最高裁の新しい判断を知っておくことは、いざというときの備えになるかもしれません。








