
2-2. デジタル資産をめぐる法的な問題
ここで重要な法的な視点を押さえておきましょう。
民法第896条は、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と規定しています。この規定に基づき、デジタル資産も基本的には相続の対象となります。
しかし、いくつか注意すべき点があります。
まず、民法上の所有権は物理的な「有体物」を対象とするため、デジタルデータそのものは所有権として相続することはできないと考えられています。相続できるのは、デジタル資産に関連する「権利」や「契約上の地位」です。
SNSアカウントは相続できるのか?
特に複雑なのがSNSアカウントの扱いです。
実は、多くのSNSでは利用規約で「アカウントの相続を認めない」と定めています。なぜなら、SNSアカウントは「一身専属的な権利」、つまり本人にだけ帰属する権利とみなされることが多いからです。
例えば、LINEの利用規約には「本サービスのアカウントは、お客様に一身専属的に帰属します。お客様の本サービスにおけるすべての利用権は、第三者に譲渡、貸与その他の処分または相続させることはできません」と明記されています。
Facebookも、「いかなる場合であっても、第三者が別の人のアカウントにログインすることはFacebookのポリシーに違反します」としており、この「第三者」には相続人も含まれるというのがFacebookの立場です。ただし、Facebookには「追悼アカウント」という制度があり、事前に追悼アカウント管理人を指名しておくことで、限定的ながらアカウントの管理を任せることができます。追悼アカウント管理人は、プロフィール写真の変更や追悼投稿の管理はできますが、アカウントにログインすることはできません。
X(旧Twitter)やInstagramも、相続によるアカウントの引き継ぎは原則として認めていません。ただし、相続人や近親者からの申請があれば、アカウントの削除には応じてくれます。
このように、SNSアカウントは「相続できない」というのが現状ですが、海外では異なる判断も出ています。ドイツの連邦裁判所は2018年、子どもを亡くした親がFacebookアカウントへのアクセスを求めた裁判で、「デジタル化されているからといって日記や手紙と異なるわけではない」として、アカウントの相続を認めました。日本でも今後、法整備が進む可能性があります。
相続税の申告とデジタル資産
デジタル資産も、当然ながら相続税の対象となります。
国税庁は、暗号資産については課税時期における取引価格を基準に評価するよう明示しています。ネット証券の株式や投資信託も、通常の証券と同様に評価されます。
問題は、相続人がデジタル資産の存在を把握できず、申告漏れが生じやすいことです。国税庁が令和4事務年度に暗号資産取引を行う個人に対して行った調査によれば、1件あたりの申告漏れ所得金額は3,077万円、追徴税額は1,036万円にものぼっています。
相続税の申告は、原則として相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。その期限を過ぎた後に新たなデジタル資産の存在が判明すると、遺産分割協議のやり直しや修正申告が必要になり、さらには追徴課税を受ける可能性もあります。


